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流行りモノ調査隊 流行りモノ調査隊
#007 今週の急上昇キーワード(更新日:2007/09/11)
『フリーダムタワー』
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急上昇の理由
 『フリーダムタワー』は、ニューヨークの世界貿易センタービル跡地に建設される超高層ビルの名称。2001年9月11日、アメリカを襲った史上類を見ないテロ攻撃から6年。ツインタワーが倒壊した現場周辺は、観光スポットとなり、かつてない再開発ラッシュにわく。
 また、8月25日よりマイケル・ムーア監督の映画『シッコ』が日本でも公開され、「9・11」事件後に様々な作業に携わった人たちの健康被害など、新たな波紋も広がっている。
グラウンド・ゼロは観光スポットに
グランドゼロ
フリーダムタワーなどの建設工事が急ピッチで進められているグラウンド・ゼロ。今年の「9.11」追悼式典は近くのズコッティ公園で開催されることになった(2007年9月1日撮影)
ワールドフィナンシャルセンター
グラウンド・ゼロと道を挟んで向い側にあるワールドフィナンシャルセンターには事件を伝える展示パネルがあり、観光客でにぎわっている
アメリカ同時多発テロ事件から6年が過ぎた。ニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)のツインタワーが倒壊し、2973名が犠牲となった、あの悲惨な出来事を忘れることはできない。だが、時間の流れの中で、人びとの記憶が薄れてきているのも事実だ。この事件はニューヨーク市民の暮らしをどう変えたのか。現状を報告しよう。

  WTC跡地、通称グラウンド・ゼロ。一体いつのまにそんな風になってしまったのか、今や観光客が押し寄せる、ニューヨークの人気の観光スポットになっている。ヨーロッパからの団体客たちが、ツアーガイドの旗の後ろにぞろぞろと列を作っていく。跡地をバックに笑顔で記念撮影をしているカップルや家族連れも多い。今は亡きツインタワーの写真や絵はがきなどを売っている、商魂たくましい人の姿もある。ここでニューヨークの「一般市民」の姿を捜すのは難しい。

 グラウンド・ゼロの周辺は厳重にフェンスやシートで囲まれ、もちろん立ち入り禁止。その隙間に目やデジカメを差し込んで中を覗くことになる。工事が進んでいるのかどうか、実際に働いている人の姿はあまり見られない。だが昨年の追悼式の頃には大きな土の穴がむき出しで開いていたところが、コンクリートできれいに埋められていた。気のせいか以前に比べてポリスの数も減り、ゆるい空気が流れている。
そして街は再開発によって変貌
グラウンド・ゼロの再開発計画の模型
フリーダムタワーをはじめ、グラウンド・ゼロの再開発計画の模型。紆余曲折しながらも工事は進んでいる
ズコッティ公園
WTC跡地近くにあった「リバティー公園」は、復旧工事の資材置き場になっていたが、2006年に遊歩道として整備され、復旧資金の提供者にちなんだ「ズコッティ公園」に名称変更。対岸には「自由の女神」が見える
事件後しばらくは、破壊されたビルの塵芥に覆われていたこのエリアも、再開発が進んでいる。

 2004年7月4日にフリーダムタワーの竣工式が行われ、そのプロジェクトは動き始めた。ダニエル・リベスキンドのよるデザインで、WTC跡地は、フリーダムタワーのほか、商業用の高層ビル、犠牲者の追悼施設など、全部で5つのタワーの建設が計画されている。

 2009年の完成を目指して工事は着々と進んでいくはずだったが、地下から人骨の破片などの残骸が発見され、骨すら見つかっていない遺族の気持ちを汲んで、工事は一時中断された。

 最近、ようやく再開され、コンクリートの土台作りが急ピッチで進んでいる。予定は大幅に遅れて、2012年には入居できるようになるという。

 また、グラウンド・ゼロの近くのウォール街には最近『エルメス』がオープン。年内には『ティファニー』なども出店する予定で、このエリアはビジネスだけでなく、高級ショッピング街として生まれ変わろうとしている。
テロへの恐怖と「9.11」の悲劇は続く
ある消防署の壁の銅壁画
ある消防署の壁の銅壁画。「We never forget」の文字と、ツインタワーから立ち上がる炎の描写が、ここを訪れる人の心に突き刺さる
ダウンタウンの消防署
ダウンタウンの消防署には、8月の元ドイツ銀行ビル火災で亡くなった2人の消防士の写真が花束に囲まれて飾られていた
ニューヨーカーの心のありようをいちばん的確に表しているのは、大きな事故や事件が起こったとき、地下鉄のアナウンスやニュースで、「これはテロとは無関係です」と伝えるようになったということかもしれない。

 2003年夏のブラックアウト。停電した瞬間、みんなの脳裏を横切ったのは「またテロか!?」だった。交通機関を失い、徒歩でブルックリン橋を渡って帰宅する人びとの行進は、まさにあの日と同じ光景だった。皮肉にも、「9・11」以降、困難なことが起こった時はみんなで助け合うという連帯感が生まれ、おかげで暴動も起こらなかったという話だ。

 今年7月にはミッドタウンで水蒸気パイプ爆発事故が発生。次に狙われるとしたら、ここだろうと噂されているグランドセントラル駅のすぐそばだったこともあり、テロと勘違いしてパニックに陥り、裸足で逃げまどう人や転倒してケガをした人、ショックで呼吸困難に陥る人たちが続出した。

 そして、8月18日、グラウンド・ゼロのすぐそばにある旧ドイツ銀行ビルで火災が発生、消防士2人が死亡した。ビルは「9.11」で被害を受け、取り壊し作業が行われているところだった。何の因果か、亡くなった消防士はテロ事件の時にも同所に出動していたという。しかも6年目の「9・11」を3週間後に控えての惨事。黒煙が上空を覆い、「まるで9.11のようだ」と恐怖に脅える人も多かっただろう。まだまだ「9.11」の悲劇は終わっていない、と、誰もが痛感した出来事だった。

 月日が経ち、普段は忘れている――いや忘れたふりをしているのかもしれないが――、ニューヨーク市民の気持ちが冷静になってきたことは確かだ。しかし、テロはまた起こるだろうとここに住む多くの人が感じている。そして、非日常的なことが起こるたびに、「9.11」の記憶は様々なかたちで、人々の心に恐怖の影を落とす。
9・11の傷跡は健康問題にも拡大
 テロに対する不安にとどまらないのが、健康被害だ。WTC周辺で事件後に様々な作業に携わった人たち――消防士だけでなく、ボランティアで跡地処理に参加した人たちや周辺住人――が訴える呼吸器系の異常や悪化。「WTCダスト」と呼ばれる崩壊したビルの煙や灰から発生した有害物質が原因とされ、死亡者まで出ていることが明かになり、健康不安は急速に拡大した。

 補償を拒否していた市に対して被害者が集団訴訟も起こし、調査がようやく開始された今年2月、ブルームバーグ市長は被害者救済に関する声明を発表。「9・11」による後遺症で苦しむ人は今後も増えるだろう。

(レポート・写真/木元裕子、ニューヨーク在住)
ある消防署の壁の銅壁画
現在、公開中のマイケル・ムーア監督映画『シッコ』は、この問題にもメスを入れている。アメリカの医療制度問題に迫ったドキュメンタリーで、“アポなし突撃男”マイケル・ムーアは、グラウンド・ゼロに出動して病気になり、保険外対象で治療を受けられない救命員を連れてキューバへ行く。グアンタナモの米軍基地に収監されているテロ事件の犯人たちの方が、明らかにいい治療を受けているというのだ。

『シッコ』
シネマGAGA!ほか全国公開中
配給:ギャガ・コミュニケーションズ powered by ヒューマックスシネマ
公式ホームページ:http://sicko.gyao.jp/    予告編はこちら>>
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